No.070 占有?それとも共有??
2025-07-19掲載
リスは単体、もしくは番(つがい)で特定の松の木を占有します。それは、リスの個性を反映した類似形態のエビフライが、それらの個体の根元付近に散乱している様子を見れば明かです。No.54 『 スティック状のエビフライ 』で紹介した個体は、正にその好例と言えるでしょう。
ところが、道場町生野のテーダマツの森を初めて訪れた時、私はいくつかの松の木の根元付近に、少なくとも4種類以上の異なる形態のエビフライが散乱していることに気づいたのです。それらの個体の根元の周辺は、いずれも最寄りの個体の樹上からリスが投棄したエビフライが混入するような位置関係に無いことから、その個体を占有するリスが食べたものかもしれません。以下の写真は、4つ以上の形態の異なるエビフライが散乱した特定の個体の根元付近を撮影した例です。
これらの写真には、少なくとも4つか5つの異なる形態のエビフライが存在することから、当初はエビフライの形態と同数のリスがこの個体を共有しているように思われました。ところが、後にこれとは別の個体の根元付近を長期に亘って調査した結果、共有しなくてもこのようなシチュエーションが現出することが明らかになりました。
以下は、12月初旬〜5月下旬まで、特定の個体の根元付近に散乱していたエビフライの形態を、隔週毎に撮影した写真から抜粋したものです。調査期間中は、毎回全てのエビフライを回収していたので、各々の写真に見られるエビフライは、撮影日からおよそ二週間前までにリスがあらたに食べたものになります。
◎ 2024.12. 1に撮影した樹下の様子
細長いスティック状のものを中心に、少なくとも3つの異なる形態のエビフライが見受けられます♪
◎ 2025. 1.13に撮影した樹下の様子
スティック状のものと、太くて長いものの2つの異なる形態のエビフライが散乱してま〜す♪♪
◎ 2025. 2.11に撮影した樹下の様子
2025. 1.13に撮影した時よりも、異なる形態のものが1つ増えてます〜♪♪♪
◎ 2025. 5.20に撮影した樹下の様子
エビフライの形態は全て同じですが、それ以前に撮影した写真のものとは明らかに異なります。
一連の状況から推察すると、この森ではリスが特定の松の木を一定期間占有した後、再び別のリスが占有するという短いサイクルが繰り返されているようです。たぶん、これが特定の松の根元付近に多様な形態のエビフライが散乱していた理由ではないかと思われます。
ただ、この森のリスは、松以外の木の根元(この森ではコナラやアベマキの根元)もお食事処として活用しており、そこではしばしば多様な形態のエビフライが見受けられます。それを考えると、リスは松の木は占有しても、実はその個体の根元付近までは占有しないのかもしれません...果たして真相やいかに。
(追記)
この記事を掲載した後、師匠からリスの行動圏についてコメントをいただきました。それによると、メスとオスは餌場が重複しますが、メスはテリトリーを防衛する傾向が強いので、基本的にメス同士で餌場は重複しないそうです。但し、クルミ等のマツボックリよりも好みの餌場が豊富な地域では、メス同士でも餌場が重複することがあるそうです。貴重なコメントをありがとうございました。
要するに、需要と供給のバランスが保たれている地域では、そこに生息するリスたちの間で、生存に関する暗黙のルールが厳守されているのかもしれません。しかしながら、需要が供給を上回る状況になると、そのルールを逸脱する輩が出てくるようです。テーダマツの森でも、たくさんあるマツの中で美味しいマツボックリを結実する個体は僅かですから、その少ないパイをめぐって、リスたちの間で日夜激しい攻防戦が繰り広げられているのかもしれませんね。